Re:Safeが⽣まれた背景
2011年3月11日。テレビで繰り返し報道される津波映像を見て、私は居ても立ってもいられませんでした。今、この瞬間にも被災した人たちは苦しんでいる。その人たちに、私に何かできないだろうか。
数カ月後、私は休暇を取り、ボランティアのために知人と被災地に入りました。そこで目にしたのは、言葉で言い尽くせない惨状です。多くの方が命を落とされました。特に辛かったのは、せっかく地震や津波から逃れて避難所にたどり着いたのに、さまざまな理由で命を落とすことになった、いわゆる「災害関連死」の方が3700名もいらっしゃったという事実です。
地震や津波の自然災害に対して人間はあまりにも無力であり、目の前に起きている現実を受け入れることしかできません。しかし災害関連死は、私たちの力で防ぐことができるはずです。その時から、私に何かできるかも知れないという意識は常に私の胸の中にありました。
以来、私は多くの災害現場でボランティアとして活動しました。しかし、被災者はいつも暑くて寒い体育館に押し込められ、プライベートのない生活を強いられていました。ストレスで体調を崩した方の話、いろんな犯罪の話、エコノミークラス症候群になった方の話など、毎回のように耳にしました。
多くの人から同様の話を聞いて私が考えたのは、キャンピングカーが使えないかということ。それならプライバシーもセキュリティも守られますし、周囲を気にせず会話ができ、快適なベッドで眠ることができる。しかもキャンピングカーは自走できるため、全国から被災地に集まれば大量の被災者の初期対応も可能です。問題は価格の高さ。より多くの人を収容できる大型トレーラーハウスも考えましたが、けん引免許が必要になるため、運用するのは現実的ではありません。
私が注目したのは、キャンピングカーと大型トレーラーの中間的な存在である、小型の「キャンピングトレーラー」でした。これならエンジンがないから価格も抑えられ、普通免許でけん引でき、機動力が発揮できる。さらに、コロナ禍の今は家族が安心して過ごせる独立した空間を提供出来るのではないか、と。
調べると、小型キャンピングトレーラーの国内メーカーは非常に少ないのです。であれば、私たちで作るしかない。そう考えたのは、2019年、災害関連で多くの方が亡くなった長野県・千曲川氾濫の被災地でのこと。せっかく助かった命は、二度と危機にさらさない。
そんな想いを込め、この挑戦を「Re:Safe」プロジェクトと名づけました。当社は三菱自動車のものづくりを支える設備メーカーですが、トレーラー製造の経験はありません。そこで海外から汎用トレーラーを購入し、社内で解析・改造・試験を行いながら開発を続けてきました。最も苦労したのは、 4人が3日間に必要な備蓄品を搭載して車両重量を普通免許でけん引できる750kg以下に抑えること。そのために最新の加工機の導入や、新たなものづくり技術も蓄積してきました。
そして東日本大震災から11年後の2022年秋、いよいよ1号機を世に出すことになりました。しかし、Re:Safeプロジェクトはこれからが本番。30年以内に70%~80%の確率で発生すると言われる東南海トラフ沖地震などの大災害に備え、一人でも多くの命を救うため、私たちは挑戦を続けます。